彼との連絡を絶った後もなかなか忘れることができず、何度こちらから電話をかけようかと迷ったかしれない。彼が遠路車をとばし、会いに来てくれないか、耳をすましたこともあった。
だが、そんな思いを徐々に振り切れたのは、まだ彼を深く愛しているから恋しく切ないのではなく、2人で過ごした時間や、楽しかった思い出が輝いて見えるからに過ぎないと、客観視できるようになったからだと思う。
もうダメなんだ。別々の道を歩く者同士だったんだ、と観念してからは、長いトンネルを抜け出たかのように、視野が開け、あらゆることに意欲的になっていった。努力しても叶わないこと、誠意があってもどうにもならないこと、願っても願っても聞き入れられないことがあるということを、初めて身をもって学び、人生との向き合い方を再考した。一見、悲観的に見えるこの悟りは、逆に、目に見えない運命とか宿命とか神の采配という強大な力が働いている事実を体感することとなった。