帰り支度を始めた私たちのために、栽培者の一人、三女の叔母が畑に入り、キャベツ、大根、かぶらに似た大頭菜などを引き抜いてくれる。すべて無農薬だ。丸々とすこやかに実り、どう料理しようか、わくわくしてくる。いただく時には、祖母たちの顔や、苗栗の風景が浮かび、美味に芳香を加える。
長らえば、喜びも多い分、苦労もついてくる。六人も子を持つと、彼らも苦難に遭い、老い、病む。そして、依然、母を慕い、彼らは還って来る。五聖宮の神仏の如く、ここで祖母は皆を迎える。畑でのびのび育つ野菜たちまで、祖母の血肉を分け与えられたように豊かで尊い。
還るね、と告げると、正直すぎるほど祖母の表情は寂しさを表現した。それを直視する心苦しさを紛らわしたくて、私は祖母の細くやわらかい手を取り、大きく話しかけた。
「さくさん食べて、しっかり歩いて、元気でね。また来るから。」
娘たちも、祖母に飛びつくようにバイバイする。土が付いたままの野菜たちを手に手に、車へ向かう。電話での会話もままならなくなり祖母の健康を願いながら、再会までの別れを惜しむ。
車窓から、伸びぬ腰で立つ祖母たちにだるくなるほど手を振って、五聖宮をも後にすると、祖母の壁で止まったままの時間や日付けの魔法が少しずつ薄れ始める。おばあちゃん、また近いうちにね。我が胸に言い聞かせる声が、自ずと響く。