「でも、からだが弱って動けない。かわいそうねえ。もうすぐ死にます。」
また来た。
「バカなこと言ってないで、もっともっと元気でいてよ。」
「ほんとよ、まったく。戯言ばっかり言うんだから。」
別便で帰省した義母のすぐ下の妹が聞きつけて口を出す。この叔母も台北在住だが、一週間祖母に付き添うことになっていた。
あまり長く話すと祖母が疲れないかと叔母に訊く。横になってるもの平気よ、と言うので、私はベッド脇に座り続けた。
壁には相変わらず三つの時計が掛けられ、それぞれ異なる時刻で針を止めている。どういう基準で淘汰されずに残ったか定かでないが、カレンダーも二種類剥がされず、絵画のように誇らしげだ。祖母の皮膚の皺、モノクロ映画で観たような昔造りの住居とそれらが、私の中で時空感覚を麻痺させる。と同時に、ここに来るたび、台湾に嫁いだ縁に思い至る。
昼食後、母屋の椅子に腰掛けた祖母にカメラを向けた。娘たちとのスナップを撮りたかった。
すると、祖母は手で振り払うような仕草をして、やめろという。
「鬼みたいだから、撮らなくていい。」
また戯言だ。
何度も説得して、ようやくおとなしく構えてくれた。小さな娘たちをもなだめねばならず往生した。
しかし、祖母は撮り終えても、まだ決まり悪そうにつぶやく。
「鬼みたいだから、撮らなくていいのに……」