小学生が国語の教科書を吟唱するような調子になる。
「足が弱って痛い。もうすぐ死にます。」
「は?なに言ってるの?痛くても歩かないともっと弱るよ。歩いてる?」
隣の部屋にも丸聞こえだろうと思いつつ、会話を続ける。
「はあー、ときどき、近所の年寄りといっしょに散歩する。」
「それはいい!だれかといっしょのほうが安心だからね。」
本当にそうだ。一人で転びでもしたら大変だ。
「ことしの冬は寒かったねえ。」
高温多湿な台湾の気候に合わせた造りのこの<老齢一條龍>では、すきま風も容赦なく吹き込むにちがいない。
「とーても寒かった。夜、ひとりはさびしいよ。でも、寝てしまったら何も感じない。」
私は同情する一方で、祖母の言い回しにユーモアを感じ、おかしくなった。
「さびしいけど、おじさんやおばさんがよく見に来てくれるでしょう?」
祖母は約二十年前に夫を亡くしたが、二男四女に恵まれ、そのうちの次男と三女が苗栗に住み、しょっちゅう老母を見舞いに帰っているのを知っている。
「今日だって、ほら、こんなにおおぜいおばあちゃんに会いに来たんだよ。」