ここでも書いたことがあるが、台湾大手の映画会社社長夫妻がその息子に始めさせたケータイに何やら配信する新会社である。
もともとリーはそこをあまり気に入らず、断わっていたのだが、向こうが譲歩したり、ラブコールを送り続けたことでリーの気持ちも徐々に変化して行ったようだった。
それに私が思うには、8月25日には娘たちが日本へ去り、寂しくなってしまう。ずっと無職状態も良くないし、家にいても仕方ないと考えたのだろう。
それはそれで私は大歓迎だった。ひとりポツネンと家にいて妻子の日本移住を恨まれるより、毎日通う場所があるのは精神的にも時間的にもいい具合に紛れるはずだ。給与もまあまあだった。
リーがいちばん嫌がったのは通勤であった。
台北市の内湖区に会社があり、いわば台北を縦断して通わねばならない。空いていれば25分くらいで行けるが、例によって恒常的渋滞に悩む台北では、まずそんなスムーズに行くことはほとんどない。その倍は見ておかねばならないし、彼のせっかちな性格には、トロトロとしか進まない渋滞が事のほか厄介だったのである。
ちなみに、この内湖区は近年開発が進んだ新興商業地域と言える。
台北市中心部には遠いが、新しいビルや商業区域が設けられ、都心部から移転する会社も少なくないのだ。