さて、既にMBA取得者のリーだが、私の内なる願いが届いたのか、再びサラリーマンとなる道も模索し始めていた。知人の勧めで、台湾の大手金融機関のひとつ、中国信託の面接を受けたり、10日間で辞めた会社を紹介したボブ呂がオーナーを務めるIT関連の会社からも声がかかっていた。
2ヶ月間も実家にいると、日本の物をあれこれと台湾に持って行きたくなる。娘たちは幼いというものの、彼女らにも必需品は多い。
そこで、ダンボール2箱分を船便で送ることにする。約3週間で台北に届く。日本でしか手に入らない食品や書籍類は本当に重宝するのだ。
あの時期読んだ本は相変わらず仏教関係のものが多かった。『般若心経88講』(ひろ さちや著)はそのひとつだ。
はじめて養老孟司の本も2冊読んだし、子育てに関する評判のいいものも手に取った。
台湾帰国直前に発売された『サライ』の特集が「般若心経入門」で、喜々として購入、帰りのスーツケースに納めた。
迷っていた。
生きる指針となる何かを渇望していた。
それは現在でも変わらない情けないザマだが、あの頃はしきりに仏教にそれを期待していた。
「自分に原則があれば揺らがない」と養老孟司は説く。
今一度、その言葉を咀嚼(そしゃく)している。