しかし、何でも事業を興すのには資金が要る。誰かと組んだり、出資を頼まねばならないだろうし、うまく軌道に乗る保証もない。
公務員の家庭で育った私は、ただ「商売」というだけで恐怖感を覚えたし、夫婦2人で切り盛りし、もし無理なら現地でひとり雇って手伝ってもらおうと考え始めていた私に、リーはこう言った。
「やるならお袋やシューエンも連れて行って一緒にやるよ。」
シューエンとは私からすれば義理の妹、リーの弟の奥さんである。
え?
これで、揺れていた私の気持ちは決まった。断固反対。
みなが住み込んで働くということだ。断固反対。
言うまでもなく、私は義母や義妹が嫌いではない。もちろん彼女らは善人で、世話にもなっている。
だが、これとそれとはまったく別問題だ。
気は遣う。やはり日本人と台湾人の生活習慣や価値観の差異も同居となるとさらに歴然としてくるはずだ。
それに、報酬や休日でもそれぞれに言い分や希望はあるだろう。近しく親しい者同士だからこそ言いにくいこと、ぶつかってはいけないことがある。
私は勇気を出し、はっきりその旨リーに訴えた。