そこから対角線上のチェーンベーカリー、パリス バゲットにはよく通った。
台湾同様、大型スーパーでもパンを焼いているが、味は専門ベーカリーに比べると落ちたので、少々値は張ってもおいしいパンを求めた。
その後、COEX内やその近辺でもおいしいベーカリーを見つけ、最寄りのパリス バゲット一辺倒ではなくなったが、そのパン屋に思い入れが強かったのは、若い店員と一線を画した私服の店長が素敵だったからだろう。
男性ではない。
30代半ばくらいだろうか、選り抜きの韓国美人であった。
長い髪を上品にまとめ、自然なメイクに自信に満ちた立ち居振る舞い。そして、彼女はソウルで会った韓国人の中で最も流暢な英語を話した。おかげで彼女とは会話が成立するとの安心感もあり、足繁く通った。同性ながらうっとりする、魅力的な女性であった。
自宅周辺の紹介はだいたいこれくらいである。
リーは毎日10時出勤、その上、自宅の窓からオフィスが見えるのだから、その点は互いに助かった。台湾と異なり、言葉がまったく通じないソウルでは何かと不安と緊張が付きまとっていた。
さて。厳しい暑さが続いていた8月12日、1ヶ月という予定を急遽変更し、義母が台湾に帰ることになった。