そこは昔からたびたび耳にする医院の一つだが、腰痛になるのは初めてで私にとっては初診だった。専門は外科でも内科や小児科でも診ますよ、といういわゆる貴重な「町医者」のひとりがいる。
問診や実際に腰を押さえてもらった結果、一種のぎっくり腰と診断される。
「でも先生、ギクッと来た記憶が無いんですけど、、、、、」
本当にないのだ。いつやったのだろう。
「無理な体勢で重いものを持ったりしませんでしたか?」
・・・・・・
あ。高い柵付きのベビーベッドにいるランを抱き上げたあれかな?
「そう言えば、それらしきことはありました。」
「強烈にギクッと来なくても、ぎっくり腰になります。」
だそうだ。
「湿布と飲み薬を出しますので、これで様子を見てください。一番いいのは安静に寝てることですけど、まあ、ご婦人にはむずかしいでしょうなぁ、、、」
腰が低く、誠実さが容貌や言動からにじみ出る先生の「ご婦人」の一句に、いつの間にか年を重ねた感慨が押し寄せ、なぜかノスタルジックな響きを感じる。
あれだけひどい腰痛が、2種類の薬が効き、一週間ほどで治った。
MRIで精密に検査をする必要はなくなりホッとする。
しかし、あれ以来、腰痛は1〜2年に一度再発をくり返すようになる。年子を産み、産後休養が必要な時期に無理をしたせいもあるのだろうと反省する。
これまで不思議と腰痛で台湾の病院を訪れたことはなく、疲れがたまり腰に来るたび名町医者・吉見先生を訪ねる。
それと、時を同じくしたラン1歳7ヶ月頃、物を食べたり、しゃべりはじめに口を開ける時、右こめかみに痛みが走るようになった。噛むとカクッカクッと音がすることも増えた。
父に話すと、
「トシや。」
と一蹴。
あれが顎関節症の初期症状だと知ったのは、ずっと後のことだった。