両家の親が認め、一緒に暮らすことは許され、そのうち入籍し、まず香港で一年ほどは2人だけの暮らしを満喫し、1〜2年後に妊娠出産、との計画は見事砕かれ、早々に台湾で妊婦道をひた走ることになった。
日本滞在時、私に午前中起きることを許さなかった悪阻は徐々に治まったが、胃をわし掴みにするような吐き気は頑固に終日続き、何かと動くのが億劫でたまらなかった。
相変わらず味覚はふだんと異なり、匂いにも敏感になり、本来大好きな毎晩のシャワーが苦痛で、誰か代わりに浴びてくれないものかと毎日考えたものだ。
匂いというのも、食べ物のそれに限らない。卑近なものを挙げれば、こともあろうにリーの汗や頭髪、煙草の匂いがテキメンにダメだった。近寄られるとウッと来るのである。
匂いのみならず、体調がすぐれない時は誰でもイライラしたり、短気になりがちなのだろうが、やはり「あなたの匂いがダメなの、近寄らないで」とは言えず、難儀した。息を止めて、ぐっと我慢。そんなことはしょっちゅうで、悪阻とは言え、あれほど愛しかったリーや彼が放つあらゆる匂いを嫌悪する自分に、私は大いに戸惑った。
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