彼は律儀な守り役のように、さっと車から降り、ドアを開けた。
私は思ったほど緊張はしなかったが、彼の一挙手一投足、話題などから熱心にリーという人間をもっと探ろうと敏感になっていた。
2002年2月13日。太陽は高い。よく晴れていた。ドライブがてら烏来へ行こうかと言われ、喜んで承諾した。烏来は台北郊外にある有名な観光地で、温泉が湧く。私はまだ行ったことがなかったが、そんなことより、とにかく少しでも長くリーといられるなら何でもよかった。
案の定、そこまでの道路はお正月というので混んでいた。運転する彼には申し訳なかったが、私はちっとも気にならず、おしゃべりを楽しんだ。
広くはない車中で、私たちはいろんなことを話した。リーはその旧正月休暇中、毎日実家へ帰っているらしかった。マンションからほど近い実家には両親と弟一家が住んでいた。姉も台北で一人暮らしをしていた。3人きょうだいの中で既婚だったのは弟だけで、その2人目の子供が生まれたばかり。その姪と遊ぶのが、帰国した時の楽しみのひとつのようだった。
リーの父親は大陸出身、いわゆる外省人で軍人だった。母親は台湾の客家人、貧しかった彼女は二十歳になるかならないかで年の離れた夫に嫁いだ。