それに、考えてみれば、リーが私に特別な感情を抱いているような気もしてきた。同じフロアで仕事をしていた時は、私の直属の上司でもなく、めったに言葉を交わすことはなかったが、月に一度、彼が香港から会議のために本社に帰って来るたび、私の席にやって来て、「元気でやってる?」などと声をかけてくれた。部屋探しをしていることを社内のネット連絡網に載せた時は、「僕、今香港にいて、部屋は誰も使ってないから、貸してあげてもいいよ。」と言っていたことも思い出し、今さらながら、あれは至極意味深長な申し出ではなかったのかと、ひとり赤面しつつ、取り乱した。
そのうち、メールアドレスを交換し、リーは携帯番号や香港のマンションの電話番号も教えてくれた。そして、私は時々彼に学校や仕事のことを主に書いたメールを送り、彼も必ず返事をくれた。
何かが始まりつつあった。東京支社長だけでなく、リーのことを良く言う同僚たちがうまい具合に私の周囲にいて、私のリーへの想いをさらにかき立てて行った。