知人や友人に話すには重過ぎる内容だったし、中国語より日本語で話し、日本語で言葉をかけてほしいと思ったからだ。
不安な気持ちで中へ進むと、電話が置かれたグレーの事務机の上には、帰り支度が済んだと見て取れるリュックがひとつのっていた。その持ち主であろう、見たところ40代半ばと思しき女性が、奥の部屋の戸締りをしているところだった。
私が立つ部屋に入って来ると、そのメガネの女性は「何かご用ですか?」と丁寧に声をかけた。私はひとまず安堵して、もうここを閉めねばならないのかと訊いた。それはそうだが、何か用があるならどうぞ、と有り難くも彼女は言ってくれた。
私は続けた。
「詳しいことは言えませんが、とてもつらいことがあり、もう、毎日どう時間を過ごしたらよいかもわからないほど苦しいので、日本人のシスターがどこかにいらっしゃらないか探していただきたいと思い、来ました。」
女性のメガネの奥の目と、小さく控えめな声も誠実そうだった。そして、その印象に違わず、それからかなりの時間をかけて名簿をめくり、何ヶ所かに電話で尋ね、日本人シスターが八里という街の修道院にいることをつきとめてくれた。
【関連する記事】