考えてみれば、まったくのひとり暮らしというのは、生まれてこのかた初めてだった。OL時代、ワンルームマンションに住んだが、大家一家が階下に住み、階上の8部屋すべてを会社が買い取り、独身寮の形にしていたので、いわば住人全員が同僚で親しく、ひとり暮らしとは言えなかった。
住み心地は上々だった。バス、電車ともに駅に近く、衣食住に必要な物を買える商店などもだいたい徒歩圏内にあった。
ただ、お湯も沸かせないのは困るので、湯沸しポットは最寄りの家電スーパーで購入した。
それから、冬は案の定寒く、湯船に浸かりたくなり、はて、どうしたおのかと頭をひねった。思いついたのは、盥(たらい)だった。盥なら、何とか狭い洗面所にも納まりそうだし、使用しない時は壁に立てかけておけばスペースをとられない。
これはイケると、さっそくこれも最寄りの雑貨屋へ行った。ちなみに中国語で雑貨屋は「五金行」という。
顔馴染みになったその店で、いちばん大きい盥を購入した。オレンジ色のプラスチック製のそれは、うまい具合に洗面所に納まり、その夜から私は外観子供のにわかプールのような格好で、湯船気分を味わった。
部屋に暖房はなく、湯船を出ると慌ててパジャマを着込まねばならなかった。
生活全般にわたって、わびしさを感じないでもなかったが、ひとり生きる充実感は大きかった。
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