彼の手にそろった1000元札3枚は、まるで絵に描いたようだった。なんと形容したらよいのだろう、映画のワンシーンの如く、緻密に計算された演出のもと、必然的にそうなったとでもいうような周到さで私の前に現われた。
私はとにかく3千元が返って来たことに安堵し、「謝謝」とだけ答えた。
台湾で自力で部屋を探し、賃貸契約を結び、小さいながらも初めて「自分だけの城」を持てた喜びに高揚する一方で、その時々の過程では、思うように行かない焦りやひとりの孤独、不安は常にあった。その中で出くわした心無い人の卑劣な行為は、その後しばらく私をとらえて離さなかった。心は寒々としていた。
それからどれくらい経っただろう。気のいい大家さんと何度か顔を合わせ、冗談さえ交えて話せるようになった頃、私はあの男性のことを話題にした。すると、大家さんは言った。
「ああ、あの男はあの支店長と付き合ってるの、家庭があるのにね。」
おおよそ予想はついていたが、ある意味「わかりやすい」種類の人間だと、ヘンに納得がいった。
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