リーが上海に発ったのはその翌日であった。
彼の独身の姉と弟一家が住むようになって初めて訪れる上海である。
ネットで交信すると、四川大地震の揺れが上海でも感じられたということだったが被害は及ばなかったらしい。
今回リーは親族を訪ねるのだけが目的ではなく、上海で就職の可能性やビジネスチャンスはないか偵察(?)も兼ねていた。
彼と私の共通の友人の中でも中国大陸と関係する事業をする人はいたし、多くの企業は北京や上海に支社支店を持っていた。
それに実は私から言えば義妹、すなわちリーの弟の奥さんは食品栄養学を専門に学んだ女性で、副収入を得るためにも、いつか自分がパンやクッキーを焼いて売る店を持ちたいという夢があり、リーに共同出資の話を持ちかけてもいた。リーも結構乗り気でいたのだ。
そんなこんなで、上海行きは単なる息抜きではなかった。
が、私は義妹とリーが共同経営するのに大反対だったので心中穏やかではなかった。大陸での商売は難しいと聞く。それに、羽振りの良い時はいいにせよ、親族で金銭が絡んだことをやり、意見が合わなかったり、あれこれ醜い争いが起きるのをとても怖れていたのだ。