70万円である。
勝訴できるか否かわからないのに、である。
結局リーは知人の紹介で8万元(当時のレートで約26万円)で手を打った。それでも本来必要のない出費であることにはかわりなく、堅実な私たち夫婦はひどく心を痛めた。
さて、裁判云々の諸事は遅々として進まぬものである。
ランはその頃、すっかり我が物顔で幼稚園内を闊歩するようになっていた。なんでも、同じ蜜蜂組に自閉症の男の子がおり、ランはうまくしゃべれず、友達ともコミュニケーションのとりにくい彼の手をとって遊んだり、こまごまと彼のする作業を手伝い、世話を焼くとヘレン老師などから聞くようになった。
私はそんな話に心和んだ。たしかにその男の子の名前を家で頻繁に言っていたが、まさか自閉症を抱える子だとは思わなかった。
お転婆で、何ひとつ物怖じしないような元気なランの別の一面に、新たな光を見たような気がした。
それ以来、私も積極的にその男の子の様子を聞いたり、彼の見方でいることを奨励していた。
が、数ヵ月後、自閉症がもとで、そのクラスメイトは他の幼稚園に移ることになってしまった。症状としては重い方だったのである。