しかし、この書評の仕事を受けた収穫の一つは、かつて未踏の地であった推理小説などに導いてもらったことだと思う。
結局、G出版社から依頼された日本語書籍の中国語書評は55冊にのぼったが、ふだん、まず自ら選び、読むジャンル以外の作品に多く触れさせてもらった。たまたまか、本来そういうものだったのか、何冊か読んだ推理は引き込まれるようにおもしろかった。
また、こんな程度でも出版できるのかと拍子抜けしそうなものもあった。いかにも傑作だと思わせるような触れ込みがあるものの、どう冷静に考えても稚拙な文章で、最後まで読み続ける気持ちにどうしてもならず、それを正直に書き送ったことも数回あった。
金さんはそれでも文句は言わず、私の批評や評価を重んじてくれたし
もっと踏み込んだ意見を電話で尋ねてくることもあった。
リーとは、「一冊やっていくらもらえるのかなあ?」と話していたが直接金さんや小宏には訊かずにいた。300元(当時で1000円ほど)では安すぎるし、1000元だとうれしいが、無理だろうなあ、というのが本音だった。
それを知ってか否か、果たしてG出版社がくれた書評一冊当たりの報酬は500元(当時約1700円)であった。
書評の作業は、リーのいる週末には、よくマックへこもってやった。
紅茶一杯で1〜2時間没頭した。
自宅最寄りのマックはとても繁盛していたが、よく観察していると、外から持ち込んだもので長居する中高校生がたくさんいることに気づくなど、社会勉強もあわせてしていたものである。