昔からブランド志向な面が多々あった。
よって、適齢期の最中にある大手出版社社長の娘と会い、基本的な「受け入れライン」を越えれば、今の彼女とサヨナラしても華やかな蝶の方へ舞い行くことは十分考えられる。もちろん、周囲がそれをとやかく言うことではないだろう。実際、小宏はけな気にも義理の両親と同居し、良い婿であろうと努力している。現在では、一人息子の学校の帰りは彼が運転して迎えに行く。朝はお抱え運転手がその勤めを果たす。また、海外も含め、ちょくちょく出張に出かける妻が不在の時は彼が子守り役。いくら経済的に恵まれても、こういう生活を嫌う男性は多いはずである。
小宏は社長令嬢と結婚後、そのG出版社で働き、リーと私が退職した会社にもまだ籍を置き、週に一日だけ出勤している。特別なはからいでと言える。これも、小宏の妻がG出版社の次期社長ということが大きく関係していることは明らかである。
お金持ち一家の婿殿になった小宏には、それぞれの会社から得る報酬はすべて自らの小遣いのようなもので、株や投資信託などにつぎ込んで楽しんでいる。
そんな暮らしを好むか否かはその人各々の価値観が決めればよい。少なくとも小宏は財布の潤ったマスオさん生活を謳歌している。リーには耐えられないだろうが。
とにもかくにも、そんなG出版社の書評の依頼を受け、恐る恐る始めたのが、リーが新しい会社に入社したのと同時期のことだった。