日本の実家に帰るたび、犬の散歩は私の仕事になる。
6月中旬になった。ある雨の日、夕方老犬の域に入ったハナと散歩に出ると、田んぼの水かさが増したのか、おたまじゃくしが大量に道路に流れ出てしまっている。アスファルト舗装ながらも農道のような車の通行量が少ない道なのでまだいいが、あまりの数に何もできず胸が痛む。
翌日、父と娘たちと一緒に出かける。お酒を中心に諸々の食品や花、種などを扱う馴染みの店へ行き、お米を30kg購入。
毎年父の友人からまとめて一年分分けてもらっているが、だいたい新米ができる前に足らなくなってしまう。「梅雨を越したら米の味はぐっと落ちてしまう」と嘆く父ゆえ、これもいいのではないかと思う。
この店は、地元農家作のお米を積極的に置いており、生産者の名前や顔がわかるのもよかった。
両親も私が小学生くらいまでは細々ながらお米を作っていたが、以来田んぼは人様に預けている。
その2日後だった。めずらしく母も在宅の火曜日の午前中、母屋から両親が私を呼ぶ。
あわてて行くと、ランが右手人差し指の先から血を流し泣いている。真っ赤なそれはとめどなく溢れ、父と母が順番にテイッシュで拭いて止血を試みている。
誰も現場は見ていないが、ランに問いただすと、私の部屋のドレッサーにあったカミソリで切ったらしい。もう置物になったようなドレッサーの引き出しを開けて物色していたのだ。
小児科しか受診したことがなかったが、このケガなら外科でもいいだろう。外科なら車で5分ほどで行ける。
叱るのもほどほどに、私はランと車に乗り込んだ。