せっかく住むことになったソウル。近場でもいいから行って見ようかと言いつつ、娘たちの幼さやハングル語ができない不都合がついつい先に立ち、いざとなると気持ちが萎えていた。
私よりずっと方向感覚にすぐれたリーだが、道路標識にローマ字表記がない場合が多く、二の足を踏まざるを得なかった。
相談の結果、江北の鐘路方面へ行くことになった。観光名所・景福宮のある、70〜80年代にはソウルの中心街だったところだ。王宮に物資を納める店が集まり、古くから商業地域として栄えてきた街である。
3月18日、暦の上ではすっかり春とはいえ、冷たい空気が張りつめた晴天、吹く風は肌を刺し、娘たちの防寒を怠れなかった。
景福宮を歩いた時、ちょうど台湾からのツアー客に出会い、ガイドが中国語で説明しているのをさりげなく聞いたり、写真を撮ったり、ランは元気に走り回ったりした。
幼い子供たちが一緒ではショッピングをする気も失せ、とにかくお昼ご飯だけでも食べてから帰ることにする。
飲食街があるらしき方向へ、私はベビーカーを押しながら歩く。
だんだん庶民的な雰囲気が濃くなり、狭い路地で夫婦が営む小さな食堂に決める。ご主人が少しだけ中国語を解したので、なんとか意思疎通をはかれた。これだけでも私たちにとっては冒険、勇気の要ることだった。
気の良い夫婦はしきりにランとメイをあやし、可愛がってくれる。
おいしい韓国の家庭料理にも満足して、重々礼を言い、辞した。
ほんの数回だけだったが、車や電車で渡った漢江の流れが懐かしい。
思い出すたび、そこは晴れていて、碧く、キラキラと陽光を反射して
流れているのだ。