そして、私たち家族の新居は、彼のオフィスが入る10階建てくらいのビルの裏手にあり、その年の春に完成したばかりのピカピカ、8階建ての2階にあった。
地下鉄の駅までは近いとは言えず、割安な大型スーパーへも車で10分以上かかったが、アジア最大と言われる地下街、COEXモールが徒歩で5分もかからぬ距離にあったし、そのちょっと向こうには奉恩寺という大きなお寺のある、恵まれた住環境にあった。聞けば、この辺りは会社社長や芸能人も多く住む高級住宅地ということだった。
韓国へ移り住んでも、私の日課である朝の散歩はリーの出勤前、欠かさず続けていた。
その時、瀟洒な邸宅や高級車を掃除するお抱え運転手をたしかによく目にした。
緑が多く、散歩が楽しくなる、落ち着いたおしゃれ感のある地域だった。
車でその付近をもう少し行くと、しゃれたブティックやレストラン、ベーカリーなども多く、タレント事務所もあるらしかった。
ちょうどその方向に、地図で見て探し当てたカトリック教会があり、20分ほどかかったが何度か歩いて見に行ったことがある。日本語や中国語のミサは行われないとのことで残念だったが、教会や寺院には心安まる力を感じ、訪れるのを好んだ。
毎週末、会社からリーに提供された車で家族4人最寄りのアメリカ系スーパーマーケット、Walmartへ買い出しに行った。
ソウル到着の2日目、さっそくそこへ行ったのだが、台湾はもちろんだが、日本より高い物価に度肝を抜かれた。食料品もそうだし、ランやメイがまだ大量消費する紙おむつも日本をしのぐ高価で、その後リーは台湾に出張で帰るたび、持てるだけの紙おむつを運んで来ることになる。