「ソウル支社長をやって台北に帰って、どんな席がある?どう考えても今以上の席はないよ。」
全部が全部ではないだろうが、海外勤務を終えて帰国すると、それなりのポストが用意されていたり、その経験を重視しさらに重用される会社が日本では多いのではないかと私は考えた。いや、そうあって然るべきにも感じる。
「そりゃそうだけどねえ。でも、うちの会社はちがうよ。ほら、東京へ行ってたビリーも、今じゃ取ってつけたような職位にいるし、北京に行ってるエディももし本社に帰ることになったらどこに座るのかと思うよ。ないもん、いい席なんて。少なくとも今以上のポストはない。現状維持だってむずかしい。」
言われてみるとそうだった。言葉は悪いが「飼い殺し」状態に甘んじている幹部はちらほら浮かんで来る。
「あなたが思うようにすればいい。」
私はリーに言った。社長がどう反応するかは置いといて、リーの判断を尊重するだけだ。
2月3日、寒波が緩んだ。
この日、入院した1月13日以来初めて二胡を弾いた。指は忘れていなかった。ホッとした。そして、二胡の音色をあらためて美しいと思った。