遠慮がちに靴を脱ぎ、足を踏み入れると、奥の応接セットから私と同じくらいの齢格好の女性が出て来た。
「あのォ、、、こちらは音楽教室ですか? それとも楽器屋さん?」
すると、オーナーらしきショートカットの女性は、
「音楽教室ですよ、楽器の販売もします。」
と、にこやかに答えた。
受付机の裏に入り、女性はファイルを取り出し、見せてくれる。
その後ろの壁に設えられた棚には楽譜がびっしり詰まっていて、ゴールドに輝くサックスが飾られていた。
私は開かれたページに目を移し、見ると、ピアノ、ギター、バイオリン、、、ズラリと教授可能な楽器名が並んでいる。
「えっ、二胡?二胡も教えてもらえるんですか?!」
思わず、声のトーンが上がった。
「はい、教えますよ。」
私は長い間憧れ、待ち望んでいた運命の人とやっとめぐり逢えたような、感動に近い、幸せな喜びを感じた。
二胡。日本では長く、だいたい「胡弓」と称されてきた中国の古典楽器である。
私は急に水を得た魚に変貌し、胸にあった二胡へのあふれる想いを興奮しながら吐露していた。