私は幼い頃から、いわゆる「枕が変わると眠れない」体質で、修学旅行や外泊というと、楽しさと同じくらいの憂鬱が付いてきた。
だが、不思議なくらいこの旅では眠れた。喜びを感じるとともに、別人になった自分のようでもあった。出産すると体質が変わる人がいると聞いたことがあるが、私も好例のひとりになったのだろうか。
その日も晴れた。3月末、台湾は春を過ぎ、初夏の様相を見せ始める。パジェロが疾駆する道端に、今日もあちこち並ぶ露店。リーとは前日に相談済みだ、釈迦を買って帰ることにする。仏像ではない。釈迦は果物の名前である。
台東は釈迦の産地として有名だ。台北のスーパーや市場で見かける値段よりずっと安く、物は数倍立派なものが手に入る。幹線道路に数え切れないほど露店が出て、農家が畑から直接、どんどん収穫した釈迦を並べ、売っている。カゴ入り、箱入り、袋詰め、何でもOKだ。
リーが車を停め、農作業の途中であるらしいイデタチのおばさんとしばらく言葉を交わし、赤いカゴ入りの釈迦を提げて戻って来た。大粒、プリプリ、安い、新鮮! 釈迦好きの私の胸は躍る。
あ、忘れるところだった。なぜ、釈迦というのか。
それは、外観がお釈迦様の頭にそっくりだからだ。そう言われれば、と誰もが合点し、微笑んでしまう代物である。
大きさや種類は色々あるが、手で難なく割れるくらいに熟してから、ガブリと直接かじって豪快に食べる。黒い種がたくさんあって食べやすくはないが、甘くて食べ応えがある。おいしい。
台湾へお越しの際は、ぜひ釈迦をご賞味いただきたい。