和食が食べたくなったとこぼすと、日本でも名の知れた居酒屋チェーン店が台湾にも進出しており、その支店に連れて行ってくれた日だった。
日本食は高いからやめとく、とやっぱり断わったが、彼は、めったに行かないのだし、そこは高くないから行ってみようと言う。
結果は、ほとんど「もどき」止まりの、日本人には子供だましに遭ったようなお粗末さだったが、「もう来なくてよい」と知るのも収穫だと割り切った。
その店を出て、リーと並んで歩いている時だった。すでに灼熱の太陽は隠居し、日差しが心地好く感じられた。
そして、何かこれまでとちがう。ちがう、、、、、どこかちがう、、
頭をひねりながら歩いていると、あっ! 空が高くなってる!と気づいた。本当に景色が根こそぎ変わっていた。南国台湾でも、秋には空が高くなるのだと、その時初めて思った。
出産に向けての身体の変化や諸々の準備を説明したガイドブックを何度も読んだ。初めての出産で不安だったが、お腹に子供が宿った以上、産むしかない。なんとかなるさ、と腹はくくっていた。
そのガイドブックによると、そろそろ入院準備を整えてよい時期だった。チェックリストに従って、私は赤ちゃんと自分にまず必要になる衣服などを揃えて、「その時これさえ持ち出せば大丈夫バッグ」をこしらえた。
妊娠前の体重から約10kg増。胎児は依然小さめで、リーも義母も食べよ太れとうるさかった。日本では、妊婦の体重増加を厳しく管理し、太ればいいもんでもない、という考えが浸透してきているが、台湾はその点原始的信仰とも言える体重重視主義が根強くあった。