ひとりでいるのは平気だった。いくらでもしたいことはあった。
ただ、咳き込んで眠れないほどになり、日本から帰って数日後の夜遅くなってから、これはまずい、肺炎になっているのではないかということになり、タクシーを呼んで最寄りの市民病院の救急外来へ急いだ。その夜を越すことが危うく感じられたのだ。
もう日付が変わる頃だった。
なのに、着いてみると救急外来の受付や待合室は明々と灯りがついていて、座りきれないほどの人でごった返していた。
リーが中国語と、時に英語を混ぜながら受付の男性職員に事情を説明する。香港は広東語圏なので、それができない私たちは何かと往生した。
聞くと、早急な手当てが必要な重症患者で待ち時間30分、それと認められない患者は3時間待ち、おまけに居留証を持たない私は実費で、基本料だけで1万円ほどかかることがわかり、あえなく診察をあきらめて帰ることにした。3時間もあんな殺気立った所で待つことを考えると、よけい悪化しそうだった。
再びタクシーに乗り、マンションに戻る。翌日リーの同僚にいい個人医院を教えてもらうことで手を打つことにするしかなかった。