仕方なく、ケータイで再度訊ねる。どうやらすぐ近くまでは来ているらしい。リーの母親が迎えに来てくれると言う。
その辺りは5階建てくらいの台湾によくあるアパートタイプの家が並んでいる。表通りを垂直に入った一帯で、静かな方だし、すぐ近所には「黄昏市場」と呼ばれる、午後4時頃から8時頃までにぎやかな市場も立つ。
リーの父親は軍人だったので、年金など国からの手当ては悪くなかった。そのアパート群にある家も国から与えられたもので、広さ、部屋数も両親と弟の4人家族が十分暮らせるものだった。
果たして、リーの母親と会い、自宅に招き入れられる。家には、父親と弟の奥さんとその一歳に満たない娘がいた。
突拍子のない行動を、心のどこかでひやひや見守る自分を感じながらも、誠意を尽くし、話をした。
リーは父親をとても尊敬していた。10代の頃、父親が亡くなったら、自分も生きている意味がない、と思っていたという。
その彼の言葉が頷けるように、70を過ぎたリーの父親は、寡黙で、控えめで、重圧な存在感を湛えた人だった。