「バスタブあるわよ。」
と、あまりに広くて隅々まで把握できなかった修道院の一画に、バスタブ付き洗面所があり、利用してもいいと言ってくれたのだった。日本人として、やはり寒い時期はゆっくり熱いお湯に浸かりたくなるのは、何年経っても変わらなかった。それほど大きくない浴室の湯けむりに埋もれ、ホッとするお湯に浸かり、至福のひとときを過ごしたのが懐かしい。
いよいよ修道院を去る日が来た。このままシスターたちと暮らしたいという厚かましい思いがなくはなかったが、そんなことは無理な話だったし、リーが下の門まで来てくれる次の楽しみがあったので、朝から眩しく晴れた空がキラキラして見えた。
数日間修道院にいて、信者がシスターたちを訪ねて来ることがあり、自家栽培なのか、野菜や果物をおみやげに渡すのを見た。私はおじゃまする前から気になっていたのだが、現金か品物でお礼しなければならないと考えていた。
訊きにくかったが、シスターMに伺うと、キッチン奥の事務室に入って行った。まもなく修道院長シスターもシスターMと一緒に出て来て、何も要らないわ、これは私たちからのプレゼントよ、あなたとともに過ごせて楽しかったわ、ともったいないお言葉をかけられた。