尾牙の会場は毎年変わるが、その年は台北市内のHard Rock Cafeを貸しきって開催された。広くてお洒落なフロアに300人ほどが集まり、それはにぎやかに盛り上がった。リーの姿を常に探し、彼が現れた時は舞い上がる気分だった。
リーなど職位の高い幹部たちは中央ステージに近い席にだいたい集まっていた。社長、本社幹部や各支社の支社長などを知らない社員はおらず、その存在感も大きく、社内では「有名人」の待遇だった。年齢は私より2歳上なだけだが、そんなリーに私は深い憧憬と誇りを感じていた。
時々会場を歩き回り、リーもやがて私に気づき、軽く挨拶を交わした。
あまりに盛大で、閉会の際には疲労感すら感じたが、思いがけないことが起こった。会場を出ようと出口に向かう途中、リーが私を認め、こう言ったのだ。日本語だった。
「酔っ払ってしまいました。」
本当に呂律がまわっていない。ニコニコ愉快に笑っている。そして、
「旧正月にまた台湾に帰って来るよ。その時、君を誘うから。」
思いがけないうれしい出来事を中国語で「驚喜」と言う。
外は結構冷える台湾の冬の夜に、驚喜が舞い降りて来たのだった。