彼はこれまでの私のだいたいの来し方を知っており、「お前を幸せにしてくれるいい男を紹介してやる」と何度か口にした。
それも話のネタくらいであろうと高をくくっていたのだが、ある出張でやって来た時、彼は具体的な人物を挙げて勧めた。その名前を聞いて驚いた。少し前まで同じフロアの同じ一画にいた上司その人だったからだ。
「は?彼は今、香港ですよ。」
「メールがあるでしょう。電話だってあるでしょう。」
東京支社長は余裕の様子で押して来る。
便宜上、その上司をリーと呼ぼう。リーは私より2歳年長で、会社では年かさな方だった。職位も高く、米国で修士号を取得し、英語ができることもあり、香港支社長に抜擢され台湾を離れた。
台湾の大学では日本語学科を卒業し、ある程度は日本語を話せたので、彼が台北にいた頃、時々立ち話程度はしたことがあった。
あとで知ったが、大家さんは私が入社する前から、今度日本から来た新入社員が入るから、よろしく頼むよ、とリーに声をかけていたらしい。
それにしても、、、、、 しかし、悪い気はしなかった。リーを思い出す時浮かぶのは、人なつっこいやさしい笑顔ばかりだったからだ。