そのうち、じゃまになって、肩から提げていたカバンを部屋の机の上に置いて搬入作業をした。貴重品が入っているし、危険かな、とも頭の隅で考えたが、大丈夫だろうと高をくくった。
謎の男性と、「これで最後だろう」と再度前の住居に荷を取りに帰った時だった。彼は例によって、先に駐車できる場所を探しに行き、後から入って来る寸法になっていた。
部屋に入ろうと、カバンから鍵を出そうとした時、ふと胸騒ぎがして、ついでに財布の中を見てみた。その日は家賃を大家さんに渡すことになっていたため、1000元札を何枚入れていたか、はっきりした記憶があった。
ない!1000元札が3枚減っている。
私は玄関ドアを開け放ったまま、中に入ったところで、「ない、ない、足りない!」とパニックになった。勤労留学生としてやっと手に入れた貴重な生活費だ。3000元というと、日本円で約1万円余りだ。いずれにせよ、なくなるのはいくらでも悲しい。
駐車して、あとからあの男性が上がって来る気配がした。
室内に入って来た彼は、背後から言った。
「ねえ、これ!そこに3000元落ちてたよ!」
振り向くと、彼の手には札3枚がきれいに握られていた。