支店長は美人の類に入り、小気味よい調子で話すハツラツとした女性だったし、その不動産屋はチェーン展開しており信用を持てたので、私はとにかく引越しと言う小さくはない行事遂行に徹することにした。
謎の男性は、車に私と家財道具を載せ、短い距離ながら3往復してくれた。年は支店長より少し上くらいに見えた。
小さい車だった。彼は、助手席に座る私に「今日の髪型、似合うね。」と褒めた。私は素直に礼を言った。ほどなくして、バッグから取り出していたタオルハンカチに目をやり、「あ、スヌーピーのだ。可愛いね。」と評した。
誰でも褒められると悪い気はしないものだが、その時私は彼に対し警戒心を抱いた。微妙ではあるが、何かいやらしさのようなものを感じたからだ。
私は話題を変え、どこに勤めているのかと訊いてみた。「テレビ局だよ。」。運転席の彼はそう答えた。